先日、友人と横須賀に出かけた。港を訪れると日本屈指の軍港らしく海上自衛隊のイージス艦や潜水艦、米国太平洋艦隊の原子力空母「ジョージ・ワシントン」が停泊していた。港の一角に日本海海戦の旗艦であった戦艦「三笠」が博物館として内部を見学できる施設がある。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」は何度か読み返した。この船が、1905年(明治38年)日本海海戦でバルチック艦隊を破った日本の連合艦隊旗艦の「三笠」の実物なのかと感慨深かった。少し春らしさを感じる季節で港の街を散策するのも気分が良い。そういえば、軍港を訪れたのは初めてであった。
横須賀の街巡りの小旅行を満喫し、帰宅してメールを開くと私の大学での講義を履修した学生から、外資系の最大手のコンサルティングファームの内々定をもらったとのメールが届いていた。彼は私の講義にも熱心に出席をしていたし、講義以外にも個別面接指導の要望もあり、何度かオンラインで面接指導もした。内々定の連絡は私にとってもうれしい便りである。
3月の初旬になると就活生にとっては1つの大きな山場に向き合う。3月1日は会社説明会解禁日であるが、この時期に内々定を得られるかどうかの大きな節目となる。民間の調査によると、3月段階で内々定を取得した就活生は50%を上回るという調査結果が出ている。近年は、複数社からの内々定をもらう比率も高くなっており、2社以上の内々定就活生が60%、3社以上が30%になっている。そして、今後の就職活動のスケジュールでは、選考開始日解禁とされている6月1日が多くの就活生にとって、複数の内々定先企業から最終的に入社先を決め、実質上就活が終了する日になる。
大学の4年間はそんなに長くはない。この期間で人間的成長を図るために、専門的な学問の勉強のみならず、クラブ活動や社会奉仕的活動など小集団活動を通じた様々な人たちとの交友経験、インターンシップなどの職業体験、もちろんアルバイトなどもキャリアに関する職業的経験につながる。これら全てが一過程の出来事ではあるが、そこから何か教訓を学んでいくことができる人と成り行きで時間をたんたんと過ごしていく人との差が出る。いわゆるイベント(出来事)とレッスン(教訓)の理論である。出来事を教訓化していく習慣ができあがるとその後の人生も意義深くなる。
大学でキャリアデザインを講義で学生に伝える中で、キャリア理論の大御所であるスーパー博士(Donald E. Super)は、キャリアを設計する上で、大切な着眼点を3つ挙げている。第一に自己理解、第二に職業理解、第3に自己理解と職業理解をつなぎ合わせる合理的推論である。大学の現場で、私がつくづく感じるのは学生がこうした基礎的なキャリア理論を習得する前に、やみくもに就職活動に入ってしまう危険性である。キャリアデザインの戦略や計画をじっくり練る時間がなく活動をはじめるので、活動自体の時間効率が悪いのである。できればキャリア設計と言うものは1つのスキルでもあるので、正しくバランスよく手順を踏みながら、自分の将来にわたるキャリアの選択、選別を効果的に質高く戦略を事前に描いてほしいと願うばかりである。キャリアデザインも秋山真之が苦心したような緻密な戦略と準備が必要だと思う。
専門的な学問を深く学んでいくことも大切だし、その専門的な学問をどのように活用するかを、自分のキャリアの設計と合わせて考えることは学問に対するモチベーションを高く維持するためにも必要でもある。売り手市場という就活戦線の近年、今頃は内々定を手にした学生も一安心している時期かもしれない。しなしながら、キャリアはこれから先が長い。入社してからが本番でもある。前述した内々定をもらった学生にも伝えたい。外資は競争が厳しい、少なくとも語学とITの勉強は強烈に続けてほしいと。戦艦「三笠」の陳列棚に掲げられていた資料から、連合艦隊解散の辞はこう結んでいる。起草は、秋山真之である。『神明は唯平素の鍛練に力め、戦はずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者より直に之を奪ふ』、そしてこう続く、『古人曰く、勝って兜の緒を締めよ』と。これから最終段階に向かう就職活動とキャリアの入り口に立ちつつある学生に、心からのエールを送りたい。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2025年3月14日
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